人間関係

🌿【看護師の視点から提言】退職者が多く出る病棟の共通点──“手触りの悪さ”が招く空気の乱れとは?

「また誰か辞めるの?」

そんな会話が日常のように交わされる病棟には、目には見えにくい共通点があります。

私は今回の異動で、その“何か”をはっきりと感じました。
そして正直に言うと——異動してすぐ、「ここは長くいたくない」と思ったのです。

人間関係が極端に悪いわけでもない。
仕事量が特別に多いというわけでもない。

それなのに、なぜか落ち着かない。働きづらい。気分が下がる。
言葉にはしにくいけれど、確かに“空気の重さ”が漂っている。

この記事では、その見えづらい“働きにくさ”の正体と、
そこから見えてきた退職者が多く出る病棟の共通点について、現場の視点からお話ししたいと思います。


◆ 退職者が多く出る病棟に共通する“無言のサイン”

異動初日、すぐに気づいたことがありました。

壊れているものや欠けているものを、誰も気に留める様子もなく、そのまま使っているのです。

「これ、誰かケガしないかな」
「ドクターの気分を損ねてしまわない?」
「なんでこんなに面倒なんだろう」

そんな“ちょっとした不快感”が、あちこちに散らばっていました。

どれも一つひとつは致命的なことではありません。
けれど、それらが無言のまま放置されているという事実が、
「この場所は大切にされていない」と感じさせる、確かなサインになっていたのです。

そしてそのサインは、じわじわと現場の空気に影響を与え、
やがて働く人の気持ちを静かに削っていきます。


◆ 小さな乱れが生む、静かな疲れと人間関係のひずみ

壊れた備品や乱れた環境は、単なる不便さを超えて、現場の心理的安全性を下げる要因になります。

誰かが直さないといけない。でも、誰も直さない。
不便を我慢して働く人、見て見ぬふりをする人。
そのズレが小さな不満になり、やがて職員同士の温度差や不信感へと変わっていくのです。

気づけば、助けを求めにくい。質問しづらい。そんな空気が生まれ、
「なんとなく、ここでは頑張れないな」という気持ちが根を下ろし始めます。


◆ “割れ窓理論”──それは病棟にも起こっている

この現象は、実は社会心理学で知られる「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」と同じ構図です。

割れた窓を放置すると、そこから他の窓も割られ、やがて街全体が荒れていく

という理論で、ニューヨーク市の治安改善に実際に応用された考え方でもあります。

つまり、「小さな乱れ」を放っておくと、
それが「どうでもいい」という空気を作り出し、
無秩序・無関心・不信へとつながっていくのです。

病棟という職場空間もまた、小さな社会です。
壊れたままの備品や乱雑な環境が続くことで、
「この場所は大切にされていない」「誰も気にしていない」というメッセージが浸透してしまう。

そうして、気づけば人が辞めていく——。
これは決して偶然ではなく、“空気の崩壊”の結果なのだと思います。


◆ 「変えてほしい」と言い出せない現場の声

現場で働く職員は、こうした状況に気づいていても、
なかなか「変えてほしい」とは言い出せません。

  • 文句を言っていると思われたくない
  • 関係が悪くなるのが怖い
  • どうせ変わらないとあきらめている

その結果、小さな我慢が積み重なり、限界が来たときには静かに辞めていくしかない——
そんな構図が少なからずあるのではないでしょうか。


◆ 整った環境は、“心の安全”の土台になる

整理整頓された空間、きちんと補充された備品、壊れたものがすぐに直される体制。

そうした職場では、スタッフは自然と「大切にされている」「守られている」と感じることができます。

そしてその感覚が、
「ここで頑張ってみよう」「もう少し続けてみよう」
という気持ちを支えてくれるのです。

清潔で整った美しい環境は、単なる快適さではありません。
それは、安心感・信頼感・尊重の証であり、
**人の縁を引き寄せる“気の整った職場”**へとつながっていきます。

「ここに居たい」と思える空気を育てる——
そのために欠かせない、大切な要素だと私は感じています。


◆ おわりに:辞めたくならない職場を

今回、異動先で「なんとなく居心地が悪い」と感じた理由は、
人間関係の悪さでも、仕事の量でもなく、“手触りの悪さ”でした。

ものが欠けたまま、壊れたまま放置されている。
そんな状態が続くと、気づかないうちに職場の空気までざらついていく——
それが、人が静かに離れていく引き金になっているように思います。

「ものを大切にできる人は、人も大切にできる人である」

壊れた道具をそのままにせず、整った空間を保とうとするその姿勢は、
人に対する配慮や敬意とも、きっとつながっているのだと思います。

物が美しい場所では、人もまた大切にされていると感じられる。
その空気こそが、「ここに居たい」と思える職場の土台になるのです。

辞めたあとに理由を探すのではなく、
“辞めたくならない場所”を日々整えていくこと。

気持ちよく働ける場所が、少しずつでも増えていくことを、私も願っています。


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