人間関係

【看護師の視点から提言】退職者が多く出る病棟の共通点“手触りの悪さ”が招く空気の乱れとは?

「また誰か辞めるの?」

そんな会話が日常のように交わされる病棟には、目には見えにくい共通点があります。

私は今回の異動で、その“何か”をはっきりと感じました。
そして正直に言うと——異動してすぐ、「ここは長くいたくない」と思ったのです。

人間関係が極端に悪いわけでもない。
仕事量が特別に多いというわけでもない。

それなのに、なぜか落ち着かない。働きづらい。気分が下がる。
言葉にはしにくいけれど、確かに“空気の重さ”が漂っている。

この記事では、その見えづらい“働きにくさ”の正体と、
そこから見えてきた退職者が多く出る病棟の共通点について、現場の視点からお話ししたいと思います。

病棟ナースステーションの風景。看護師の視点で語る職場環境の課題を示すアイキャッチ画像

退職者が多く出る病棟に共通する“無言のサイン”

異動初日、すぐに気づいたことがありました。

壊れているものや欠けているものを、誰も気に留める様子もなく、そのまま使っているのです。

「これ、誰かケガしないかな」
「ドクターの気分を損ねてしまわない?」
「なんでこんなに面倒なんだろう」

そんな“ちょっとした不快感”が、あちこちに散らばっていました。

どれも一つひとつは致命的なことではありません。
けれど、それらが無言のまま放置されているという事実が、
「この場所は大切にされていない」と感じさせる、確かなサインになっていたのです。

そしてそのサインは、じわじわと現場の空気に影響を与え、
やがて働く人の気持ちを静かに削っていきます。


小さな乱れが生む、静かな疲れと人間関係のひずみ

壊れた備品や乱れた環境は、単なる不便さを超えて、現場の心理的安全性を下げる要因になります。

誰かが直さないといけない。でも、誰も直さない。
不便を我慢して働く人、見て見ぬふりをする人。
そのズレが小さな不満になり、やがて職員同士の温度差や不信感へと変わっていくのです。

気づけば、助けを求めにくい。質問しづらい。そんな空気が生まれ、
「なんとなく、ここでは頑張れないな」という気持ちが根を下ろし始めます。


“割れ窓理論”──それは病棟にも起こっている

この現象は、実は社会心理学で知られる「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」と同じ構図です。

割れ窓理論とは、アメリカの犯罪学者ケリングが提唱した理論であり、1枚の窓ガラスが割られている状態を放置していると、やがて他の窓ガラスも割られていき、次第に街全体が荒廃、犯罪が増加するという理論です。

ニューヨーク市の治安改善に実際に応用された考え方でもあります。

つまり、「小さな乱れ」を放っておくと、
それが「どうでもいい」という空気を作り出し、
無秩序・無関心・不信へとつながっていくのです。

病棟という職場空間もまた、小さな社会です。
壊れたままの備品や乱雑な環境が続くことで、
「この場所は大切にされていない」「誰も気にしていない」というメッセージが浸透してしまう。

そうして、気づけば人が辞めていく——。
これは決して偶然ではなく、“空気の崩壊”の結果なのだと思います。


「変えてほしい」と言い出せない現場の声

現場で働く職員は、こうした状況に気づいていても、
なかなか「変えてほしい」とは言い出せません。

  • 文句を言っていると思われたくない
  • 関係が悪くなるのが怖い
  • どうせ変わらないとあきらめている

その結果、小さな我慢が積み重なり、限界が来たときには静かに辞めていくしかない——
そんな構図が少なからずあるのではないでしょうか。


整った環境は、“心の安全”の土台になる

整理整頓された空間、きちんと補充された備品、壊れたものがすぐに直される体制。

そうした職場では、スタッフは自然と「大切にされている」「守られている」と感じることができます。

そしてその感覚が、
「ここで頑張ってみよう」「もう少し続けてみよう」
という気持ちを支えてくれるのです。

清潔で整った美しい環境は、単なる快適さではありません。
それは、安心感・信頼感・尊重の証であり、
**人の縁を引き寄せる“気の整った職場”**へとつながっていきます。

「ここに居たい」と思える空気を育てる——
そのために欠かせない、大切な要素だと私は感じています。


おわりに:辞めたくならない職場を

今回、異動先で「なんとなく居心地が悪い」と感じた理由は、
人間関係の悪さでも、仕事の量でもなく、“手触りの悪さ”でした。

ものが欠けたまま、壊れたまま放置されている。
そんな状態が続くと、気づかないうちに職場の空気までざらついていく——
それが、人が静かに離れていく引き金になっているように思います。

「ものを大切にできる人は、人も大切にできる人である」

壊れた道具をそのままにせず、整った空間を保とうとするその姿勢は、
人に対する配慮や敬意とも、きっとつながっているのだと思います。

物が美しい場所では、人もまた大切にされていると感じられる。
その空気こそが、「ここに居たい」と思える職場の土台になるのです。

辞めたあとに理由を探すのではなく、
“辞めたくならない場所”を日々整えていくこと。

気持ちよく働ける場所が、少しずつでも増えていくことを、私も願っています。




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