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北京2日目|故宮・紫禁城その② 太和殿の見どころと歩行注意点

太和殿──皇帝儀礼の中心で感じた静けさと、ちょっとした可笑しみ

※この記事は2025年10月18日に訪れた際の記録です。

太和門を抜けた瞬間、
広大な前庭の奥にそびえる太和殿が、ゆっくりと視界に広がってきました。

紫禁城の中でも最も大きく、国家の大典が行われてきた象徴的な建物。
ドラマや写真で見慣れていたはずなのに、
実物は圧倒的で、息をのむほどの存在感です。

広場に立つと、その場の空気に自然と姿勢が整うような感覚がありました。

晴天の下にそびえる紫禁城・太和殿の全景。大勢の観光客が広場に集まっている。
紫禁城最大の建物・太和殿。ここで皇帝の即位式や大典が行われました。

紫禁城最大の儀礼空間に立つ

太和殿は、皇帝の即位式や元日の朝賀など、
国家の中心儀式が行われた最も権威ある場所です。

三重の基壇の上にそびえる堂々とした建物は、
左右対称の配置と均整の取れた屋根の曲線が美しく、
遠近どの角度から眺めても“完成された宮殿建築”という印象を受けます。


中央の白い石坂──皇帝専用とされた「御路」

太和殿の正面には、
白い大理石の斜面に龍が彫られた立派な中央道があります。

案内ではここは 「皇帝専用の象徴的な通路(御路)」 と説明されています。

ただ、近づくほどに思うのです。
これ、傾斜が急すぎませんか?
そして、表面の細かな凹凸。
現代人の感覚では、ここを歩きこなす自信が全くありません。
皇帝はそもそも歩かないですね。
輿に担がれて、この上を通ったそうです。

龍と雲の彫刻が施された巨大な石坂・御路を下から見上げた写真。
中央の白い巨大石彫は、皇帝のみが通れた“御路”。雲海に舞う九匹の龍が象徴的です。

太和殿前の広場に並ぶ官吏たち──後ろの方は絶対に聞こえていない問題(笑)

太和殿前の広場は約3万㎡。
式典の時は、ここに官吏たちがずらりと並んで三跪九叩頭の礼を行いました。
ドラマや映画ラストエンペラーなどで、何度も見たあの壮大なシーンです。
いったい何人くらい並んでいたのでしょうか?

皇帝から後方の官吏までは、100m以上離れることもあったといわれています。
ふと思いました。

拡声器などない時代、
朕の声が届くわけがありません。(笑)

実際の儀礼記録では、
官人たちは「皇帝の声を聞く」のではなく、
前列の官人の動きを見て行動するリレー方式 だったことが残っています。

つまり、

前が頭を下げたから、
「あ、今、拝礼のタイミングなんだな」
と気づいて動く。

後方の官人にとって大典は、
内容よりも とにかくタイミングを間違えないことの方が大切だった のでしょう。

あの荘厳な広場にそんな“ちょっと人間味あふれる光景”があったと思うと、
なんだか可笑しくなるのです。


近づくほど際立つ、丹塗りと彩色の美しさ

太和殿の朱色の柱、瑠璃色の組物、金色の装飾は、
陽射しを受けると一層鮮やかに輝きます。

太和殿の正面を間近で撮影。丹塗りの柱と鮮やかな藍彩が輝く。
近づくほど圧巻。丹塗りの赤、瑠璃色、金彩が陽光にきらめく美しさ。

色の配置が緻密に計算されているため、
どの角度から見ても調和が美しく、
建物そのものが“巨大な工芸品”のよう。

歴代の職人たちが受け継いだ技と美意識が、
今も息づいていると感じました。


扉越しに見える玉座と「建極綏猷」

太和殿内部は扉越しにのぞくことができ、
黄金の柱の奥に玉座(龍椅)が据えられています。

玉座の上には
「建極綏猷(けんきょく・すいゆう)」 の扁額。

“正統な皇帝が、優れた政治によって国を安定させる”
という統治理念を示す言葉です。

荘厳な空間の中心に掲げられるにふさわしい、重みのある四文字でした。

太和殿内部の玉座と、頭上の「建極綏猷」扁額が見える写真。
玉座の上に掲げられた「建極綏猷」の扁額。ここが“天下の中心”とされた場所です。

太和殿内部の金色の柱と、匾額横の書が拡大で写る写真。
内部の金柱には龍が巻きつき、扁額の周囲には皇帝の統治理念を示す言葉が記されています。

軒下に広がる斗栱(とうきょう)の精巧さ

太和殿の軒下に目を向けると、
複雑で精巧な斗栱(とうきょう)が連なっています。

荷重を分散し、屋根を支える構造としての役割を持ちながら、
彩色も美しく、光が当たると陰影が立体的に浮かび上がります。

立ち止まって見上げるほどに、
ここが中国建築の最高峰のひとつであることを実感します。

太和殿の軒下を真下から見上げ、斗栱と彩色が詳細に写っている。
精緻な斗栱(とうきょう)。木造建築の最高峰と言われる紫禁城の象徴。

金色の大銅壺──宮殿を火から守った設備

太和殿前に大きな金色の銅壺が置かれています。
紫禁城内に合計308個も設置されているそうです。

これは 防火用に水を蓄える壺 として使われたもので、
宮殿が木造である以上、火事は常に最大の脅威。
この壺が宮廷の安全を支えてきたのだと思うと、
静かに佇む姿にも歴史の重みを感じます。
ドラマ「瓔珞」でもこの壺のエピソードがありましたね。

太和殿の前に置かれた大きな金色の大銅壺のアップ。獅子の取手が特徴的。
火事から紫禁城を守った大銅壺。中には常に水が満たされていました。

まとめ──歴史の中心に立つ静かな時間

太和殿は、皇帝儀礼の中心として長く守られてきた空間でした。

象徴としての中央の道、
政治理念を示す扁額、
計算された色彩と木組み、
防火のための設備——

どれも宮廷生活の一端を物語り、
広場に立つだけで、その空気をゆっくりと感じることができる場所です。

そして目の前の光景に触れた瞬間、
これまで中国ドラマで目にしてきた数々のシーンがよみがえり、
物語の世界と現実がふわりと重なって見えました。

旅の中でも特に印象深い時間となり、
改めて訪れてよかったと思えるひとときでした。


おまけ:歴史ある石畳は“ワイルド”。でも安心ルートもあります

太和殿の前庭を歩いてみると、
目の前に広がる壮麗な景色とは裏腹に、足元はかなりワイルドです。

長い年月を経た石畳はところどころ磨耗し、
石と石のあいだに段差が生まれていて、
うっかりすると足を挫きそうな箇所がいくつもあります。

人が多い時間帯は視界が遮られるため、
“写真を撮りながら歩く” は本当に危険。
皇帝の御前で転ぶわけにはいきませんので(笑)、どうぞ気をつけてくださいね。

紫禁城・太和殿前の歴史ある石畳。経年で磨耗し、段差や隙間が目立つ様子。
太和殿前の石畳はかなりワイルド。長い年月が刻まれています。

紫禁城の別エリアにある比較的整った石畳。歩きやすいが細かな凹凸は残る。
エリアによって石畳の状態はさまざま。歩きやすい場所もありますが油断は禁物です。

履き物について

太和殿の石畳は凹凸が激しいため、
ヒールのある靴は溝に挟まりやすく、とても歩きづらいです。

旅で足を痛めてしまうのは惜しいので、
スニーカーなど底が安定した歩きやすい靴がいちばん安心です。
(私自身、スニーカーで本当によかったと感じました。)

ベビーカー・車椅子はどうなるの?

ご安心ください。
太和殿の周囲には、歴史保存の石畳とは別に、
ベビーカー・車椅子の方が利用しやすい舗装ルート がきちんと整備されています。

  • 凹凸の石畳とは独立した平らな通路
  • 段差が少なく押しやすい動線
  • 視認性の高い案内看板

歴史的景観を守りながら、誰もが訪れやすいように工夫されている点はとても好印象でした。

最後に──思いがけず“時が重なる瞬間”

そして歩いていると、ふと目の前に現れたのがこのお二人。

まるで宮廷ドラマのワンシーンのようですが、
史実として、外朝(太和殿周辺)を正装で二人寄り添って歩くことはなかったでしょう。

外朝は皇帝が国家儀礼を執り行う「最も格式の高い空間」であり、
厳格な礼法に従って動く場所。
皇后や妃嬪が自由に散策できるような場ではありません。

この日偶然見かけた観光客のお二人の姿に、
思わず胸が温かくなりました。
皇帝が皇后の手荷物を持ってあげていますね。
お優しい皇帝はどんな時代においても魅力的です。

皇帝と皇后のような宮廷衣装を着た観光客。
宮廷ドラマのような一瞬。外朝では本来ありえない光景ですが、どこか心が温まります。

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