※この記事は2025年10月18日に訪れた際の記録です。
故宮(紫禁城)の象徴である三大殿。
太和殿を後にして北へ進むと、次に現れるのが 中和殿。
そこからさらに奥へ進むと、科挙の最終試験が行われた 保和殿 へと続きます。
この日は秋の澄んだ空気の中、建物の朱色や金色がいっそう鮮やかに感じられました。
中和殿|皇帝が儀式の前に心を整えた場所
中和殿 外観

皇帝が儀式前に整える“控えの間”として使われていました。
太和殿の壮大な空気から一歩離れ、ややこじんまりとした中和殿。
黄金の屋根が陽に輝き、朱塗りの柱が並ぶ姿は、小さな建物ながら凛とした美しさがあります。
中和殿は、皇帝が大典の前に衣冠を整え、気持ちを落ち着かせた“控えの間”。
建物名の「中和」には、“偏らず、調和の取れた心の状態”という意味が込められています。
中和殿の扁額

儀式直前に皇帝が姿勢を整える、静謐な空間です。
青地に金文字で書かれた扁額は、中和殿の象徴ともいえる美しいポイント。
細かな装飾の一つひとつに、宮廷建築の高さを見ることができます。
保和殿|儀礼から「最終試験」の場へ
中和殿を抜けると、三大殿の最後を飾る 保和殿 が姿を現します。
名のとおり「和を保つ」という意味を持ち、皇帝の宴席や科挙の最終試験“殿試”が行われた場所です。
黄金の屋根と重厚な装飾。その中心に掲げられた扁額が、歴史の重みを物語っています。
保和殿 扁額

清代には宴席や科挙の最終試験“殿試”の会場にもなりました。
保和殿の内部|皇帝の玉座と、天命を示す言葉
扉の奥に見えるのは、鮮やかな赤と金で飾られた皇帝の玉座。
外朝の象徴であるこの空間は、静かな緊張感に満ちていました。
皇帝玉座(全景)

威厳に満ちた空気が漂います。
玉座の上には、乾隆帝による「皇建有極」の扁額。
“皇帝の徳は極まりなく高い”という意味で、この空間の中心的な存在感を放っています。
対聯(書)「時乗六龍以御天」

皇帝の統治は天命によるものと説く象徴的な一文です。
“六龍に乗り天を御す”という古典の一節。
皇帝が天命を受けて統治するという意味が込められています。
玉座装飾(龍の彫刻)

龍の装飾は吉祥と皇帝の権威を象徴。
近づいて見ると、金細工の繊細さに息をのみます。
守りの象徴|贔屭(びき)の像
神獣・贔屭

皇帝の治世が安定し、国が長く栄えるよう願いが込められています。
龍の頭と亀の体を持つ神獣・贔屭。
長寿と安定を象徴し、皇帝の治世が揺るぎないものであるよう願いが込められています。
保和殿から広がる景山の眺め
景山公園方向を望む

皇城の奥深さを感じられる絶景ポイントです。
保和殿からは、外側の城壁越しに景山公園の万春亭を望むことができます。
保和殿の公式説明板(中国語+英語)
説明板

説明板は中国語と英語のみでしたが、要点を日本語でまとめると次のとおりです。
【保和殿の日本語まとめ】
- 創建:1420年(明 永楽帝)
- 火災で数度焼失し再建、現在の建物も明代の構造を継承
- 当初は「謹身殿」と呼ばれた
- 1645年(清 順治帝)に「保和殿」と命名
- 名の由来は『周易』で“調和を保つ”という意味
- 建築面積:約1240㎡
- 前の6本の柱の根元を削り、視界を広げる特別な構造
- 清代には正月十五日の宴席を開催
- 乾隆54年(1789年)以降、科挙の最終試験「殿試」」の固定会場に
三大殿を歩き終えて──このあと私的空間へ
太和殿・中和殿・保和殿という、皇帝儀礼の中心となる三つの殿を歩いてみると、
外朝(がいちょう)という政治の舞台の緊張感を感じます。
ここまでが “国を統べる皇帝の表の顔” のエリア。
この先は、いよいよ皇帝と皇后たちが実際に生活した 内廷(ないてい) に入ります。
建物の佇まいも空気感も変わります。
このあとは、皇帝の「住まい」部分へ入っていきます。