※この記事は2025年10月18日に訪れた際の記録です。
故宮の外朝から始まった長い参観も、いよいよ内廷のハイライトへ。
今回は 乾清宮 → 交泰殿 → 坤寧宮 → 御花園 → 北門 → 景山公園 の順に歩いた一連の流れをまとめます。
この日はとても空が青く、黄色の瑠璃瓦がいっそう映えていました。
乾清宮|皇帝の私的空間へ

白い石段の上に堂々と構える大殿は圧巻で、手前の銅製水槽(銅缶)は火災対策として重要な役割を担っていた。
外朝の厳粛な空気とは一変し、ここからは皇帝が実際に暮らした後宮エリアへと入ります。
乾清宮は、明代から清朝初期にかけて皇帝の寝殿として使用されていました。
しかし清の雍正帝(在位1722–1735)以降は、居住の場というよりも、重要政務を扱う実質的な執務空間へとその役割を変えていきます。
権力の象徴から、静かな決断の場へ。
建物の用途の変遷は、皇帝統治のあり方の変化そのものを映しています。

金色の屋根飾りと鮮やかな彩色が美しく、紫禁城内廷の格式を象徴する建物。

ここには清朝期、皇位継承者の名前が密封されて保管されていたことで知られます。
背後の豪華な龍文装飾とともに、皇帝の威厳が強く感じられる空間。
交泰殿

皇帝と皇后の調和を象徴する空間で、玉璽を保管し、皇后が儀礼を行った重要な殿。
鮮やかな彩色と堂々たる構えがひときわ目を引きます。
乾清宮と坤寧宮のちょうど中央に建つ交泰殿。
その名は「天地が交わり、調和が生まれる」という意味を持ちます。
清代には、皇后が正式に立てられる際の儀礼や、重要な節目に妃嬪から拝礼を受ける場として用いられました。
また、皇后の印章など象徴的な宝物が安置されたことでも知られています。
皇帝(天)と皇后(地)を結ぶこの場所は、
後宮における“均衡”を静かに示す空間だったのかもしれません。

皇后の玉座が据えられ、天井を飾る八角形の藻井は息をのむほどの細工。
玉璽(皇帝の印章)が保管され、儀式が行われた“内廷の心臓部”ともいえる場所です。
坤寧宮|皇后の居所

皇后の宮として建てられ、清朝では祭祀儀礼の場として用いられました。
交泰殿の奥に建つ坤寧宮は、皇后の居所とされた建物です。
明代には皇后の寝殿として用いられ、清朝時代には宮中の婚礼が執り行われました。
つまりここは、後宮の頂点に立つ女性が正式に“その座”に就く場所でもあったのです。
『瓔珞』を観てきた方なら、
皇后の気高さと、その裏に潜む緊張感を思い出すかもしれません。
『如懿伝』が好きな方なら、
この奥まった空間に漂う静かな重圧や、後宮の息詰まるような空気を重ねてしまうはずです。
華やかな鳳冠や赤い婚礼装束。
しかしその一歩先に待つのは、愛だけではなく、権力と孤独。
実際の坤寧宮は驚くほど静かでした。
けれど、その静けさこそが、後宮という世界の重みを雄弁に物語っているように感じられました。
御花園|後宮のオアシスへ
後宮の重厚な建物が続いた先で、ふわりと空気が変わります。
石と瓦の世界から、緑に包まれた静かな庭園へ——それが御花園です。
ここは、後宮の女性たちがひととき息をついた場所。
けれど同時に、物語が大きく動く舞台でもありました。
『宮廷の諍い女』では張り詰めた対峙が、
『瓔珞』では運命を左右する出会いが、
『如懿伝』では静かな決意が——
あの印象的な場面の多くが、この庭園のような空間で描かれています。
現実の御花園は驚くほど穏やかです。
けれど、その静けさの奥には、愛と策略、友情と裏切りが幾重にも重なっているように感じられました。
後宮にとって御花園は、
癒しの場所であり、試練の場所でもあったのかもしれません。
萬春亭

丸屋根と複雑な斗拱が華やかな佇まい。
御花園の中心に佇む八角形の楼閣、萬春亭。
赤と金が織りなす華やかな色彩は、静かな庭園の中でひときわ存在感を放っています。
軒下を支える細やかな斗栱(ときょう/木組み)は、思わず足を止めて見上げてしまうほどの精緻さ。
八角という形は四方八方を統べる象徴ともいわれ、皇権の空間にふさわしい均整を感じさせます。
同じ建物でも、立つ位置や光の差し込み方によって表情は大きく変わります。
見上げれば天井の意匠に目を奪われ、引いて眺めれば庭園との調和に息をのむ——
まさに、何度でもシャッターを切りたくなる場所でした。
萬春亭の内部天井

天井を見上げると、幾重にも重なる斗拱の奥に金色の龍が舞う華麗な藻井が広がります。
紫禁城でも屈指の美しさを誇る装飾で、思わず足を止めて見入ってしまうほど。
楼閣の真下に立ち、そっと見上げると、天井いっぱいに広がる龍の意匠。
赤と金が幾何学的に重なり合い、まるで万華鏡の中にいるかのような世界が広がります。
中心に据えられた龍は皇帝の象徴。
その下に立つと、紫禁城が単なる宮殿ではなく、“天命”を背負った統治空間であったことを実感させられます。
精緻な彩色と構造の美しさは、まさに紫禁城建築の極み。
時間を忘れて見入ってしまう瞬間でした。
『瓔珞』のオープニング映像を思い出した方も多いのではないでしょうか。
あの印象的な天井の世界は、ここから生まれたのだと気づいたとき、少し胸が高鳴りました。
御花園の石洞アーチ

建物の華やかさから一歩離れ、緑に包まれる癒しの小径。
御花園の一角には、自然石を積み上げて造られた石洞アーチがあります。
岩をくり抜いたようなその通路は、庭園の景色を切り取る額縁のようでもあり、ひときわ印象的な存在でした。
この小さなトンネルを、かつて皇族や后妃たちも歩いたのだろうか——
そう思うと、ただの通路が少し特別な場所に変わります。
太湖石特有の複雑な穴や凹凸は、自然の造形美そのもの。
光が差し込む角度によって表情を変え、庭園に奥行きを生み出しています。
『瓔珞』でも、このような石洞を舞台に印象的な場面が描かれていました。
現実の静かな空間に立つと、あの緊張感ある場面がふっと重なります。
御景亭|庭園の奥に佇む楼閣

太湖石の壮麗な假山・堆秀山の頂にあり、皇帝が庭園を見晴らした小亭です。
御花園の奥に、ひっそりと建つ御景亭。
小高い位置に構えられたその姿を、私は下から見上げるかたちで眺めました。
石段の上に立つ八角の楼閣は、空を背景にして凛とした存在感を放っています。
近づきすぎず、少し距離を置いて見上げることで、その均整の美しさがいっそう際立ちました。
豪奢さというよりも、静かな気品。
後宮の奥にあって、物語を静かに見守ってきたような佇まいでした
触れると幸運が訪れる香炉

幸運を願って多くの人が手を触れる人気スポットで、触れられた部分が艶やかに輝いているのが印象的。
御花園でひときわ人だかりができていたのが、この香炉。
獅子のレリーフに触れると「幸運が訪れる」と言い伝えられており、
訪れた人たちがそっと手を伸ばしていました。
長い年月のあいだに磨かれた獅子の姿は、
多くの願いを受け止めてきた証のようにも見えます。
皇帝や后妃が歩いた空間の中で、
今もなお“祈り”という行為が続いていることに、不思議なつながりを感じました。

龍や雲の文様が細やかに刻まれ、脚元の獅子像は幸運を願う人々に触れられて艶やかに輝いています。
全体はこのような姿。装飾がとても細やかで、芸術品のようでした。
北門(神武門)から故宮を出る

ここを抜けると景山公園が目の前に広がり、紫禁城を一望できる絶景ポイントへと続きます。
長い参観の終わりは、故宮北側の出口・神武門。
門をくぐると、正面には大きく掲げられた「故宮博物院」の文字が目に入ります。
その瞬間、壮大な宮殿の世界から、現実へと静かに引き戻されるような感覚がありました。
振り返れば、これまで歩いてきた後宮の建物が、あの門の向こうに広がっています。
そして視線を前に向けると、すぐ目の前には景山公園へと続く道。
紫禁城を“歩いて体験する”時間から、今度は“全体を俯瞰する”時間へ——
物語は、まだ続きます。
景山公園へ|歩いてきた紫禁城を一望する
神武門を出てすぐ目の前にある景山公園。
紫禁城建設の際に掘り出された土を積み上げて築かれた人工の山で、北からの邪気を防ぐ風水的な役割も担っていたといわれています。
石段を上り、振り返ったその瞬間——
これまで歩いてきた紫禁城が、ひとつの景色として目の前に広がりました。
太和殿の屋根、乾清宮の奥行き、坤寧宮の位置。
それぞれを歩いて見てきたからこそ、「あそこを通った」と指でなぞれるように分かります。
地上では気づかなかった建物同士の距離や一直線に並ぶ中軸線の美しさも、ここからなら一目瞭然。
紫禁城は単なる建物の集まりではなく、全体が計算され尽くした構造体だったのだと実感しました。
そしてふと、『瓔珞』や『如懿伝』の場面が重なります。
あの後宮の物語も、この広大な空間の中で展開していたのだと思うと、胸が静かに高鳴りました。
歩いて体感し、最後に俯瞰する。
景山公園からの眺めは、紫禁城観光の締めくくりにふさわしい時間でした。
北京の中心点
景山の高台に立つと、紫禁城だけでなく、北京という都市そのものの構造が見えてきます。
紫禁城は、北京の中軸線上に位置しています。
この中軸線は、永定門から天安門、紫禁城、景山公園を経て鼓楼・鐘楼へと一直線に伸びる、都市設計の背骨ともいえる存在です。
南北に貫くその軸線は、単なる道路ではなく、
皇帝を中心とした世界観を体現する思想そのもの。
実際に高台から眺めると、
紫禁城が偶然そこに建っているのではなく、
都市全体の“中心”として計算されて配置されていることがよく分かります。
歩いてきた宮殿群も、この軸の上に整然と並んでいました。
壮麗な建築の裏にある、徹底した構造美。
北京という都は、
権力と思想を、都市そのものに刻み込んだ場所なのだと感じました。

かつて城門が囲んだ北京旧市街の中心が視覚的にわかる人気フォトスポットです。
紫禁城の全景|息をのむ美しさ

黄金の屋根が奥へと続く紫禁城のスケール感を一望できる特等席で、北京の街並みを背景に壮麗な全景が広がります。

手前に北門(神武門)、その奥には皇帝が暮らした宮殿群が幾重にも続き、北京の街までが一望できます。
壮麗さとスケール感が最も伝わる“絶景スポット”です。
景山公園の頂上から見渡した瞬間、思わず息をのみました。
何枚写真を撮っても収まりきらない、圧倒的な広がり。
視界いっぱいに連なる黄金色の屋根。
南北に一直線に伸びる中軸線。
整然と並ぶ宮殿群の奥に、現代の北京の街並みが重なります。
地上では感じきれなかった紫禁城の規模が、
ここからなら一目でわかります。
ひとつひとつの建物を歩いて巡ったあとだからこそ、
その全体像が、ただの“美しい景色”以上の意味を持ちました。
壮大で、静かで、どこまでも計算された構造美。
紫禁城は、まさに都市の中心に据えられた巨大な舞台だったのです。
まとめ|紫禁城(故宮)、景山公園観覧のポイント
① 紫禁城は事前予約制
紫禁城(故宮博物院)の入場は事前予約が必須です。
予約開始と同時に枠が埋まることもあるため、受付が始まったら早めに確保するのがおすすめです。
私は Trip.com の予約代行サービスを利用しました。
個人手配に不安がある場合でも、手続きがスムーズで安心感がありました。
② パスポートは必須
入場時にパスポート情報を読み取ります。
必ず原本を持参してください。
③ トイレ・休憩・飲食
- トイレは敷地内の各所に設置されています
- ベンチも多く、適宜休憩可能
- カフェや軽食店もあり、見学の合間にひと息つけます
広大な敷地ですが、極端に不便を感じることはありません。
④ 履き物は最重要ポイント
石畳と広大な敷地のため、想像以上に歩きます。
スニーカーなど歩きやすい靴は必須です。
⑤ 所要時間の目安
私は東六宮を省いて約2時間半。
それでもかなりの距離でした。
建物内部や展示まで丁寧に見学する場合は、4時間以上は確保しておくと安心です。
⑥ 動線のポイント
紫禁城は入口と出口が固定されています。
効率的なのは:
天安門広場 → 紫禁城 → 神武門(北門) → 景山公園
この順で回るルートです。
⑦ 景山公園の入場について
景山公園も事前予約が可能です(当日券もあり)。
私は Trip.com を利用し、QRコードで入場しました。
予約時に時間指定がありますが、実際には予約時間前でも入場できました。
黄金の屋根の波が夕暮れに溶けていく景色を胸に、
北京2日目は静かに幕を閉じました。

揺れる水面が、北京2日目の静かな余韻を映していました。